アークティック・モンキーズ、歌詞の軌跡 ~ いしわたり淳治×妹沢奈美

いしわたり淳治

1997年にロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。アルバム7枚、シングル15枚を発表し、全曲の作詞とギターを担当。2005年のバンド解散後は、作詞家、音楽プロデューサーとして活動するかたわら、雑誌等への執筆もおこなっている。ソニー・ミュージックエンタテインメント CPファクトリー所属。

妹沢奈美

音楽ライター。現代美術史を学ぶため英国留学中にロックやダンス・ミュージックに出会い、早稲田大学第一文学部卒業後は音楽雑誌の編集部に入る。その後フリーとなり、オアシスからアークティック・モンキーズ、レディオヘッドなど様々なアーティストの取材やライナーノーツを手掛ける。
プロデューサーのいしわたり淳治さんと、音楽ライターの妹沢奈美さんによるアークティック・モンキーズの歌詞対談。後編は、3rdアルバムの歌詞の分析から話が始まりました。

むしろ不思議な存在になってしまったほうが、この音楽性に移る理由というか、土台ができるんですよ。

いしわたり「3rdの『ハムバグ』の歌詞も難解なんですよね。砂漠で作った作品で、ラクダが歩くペースの曲が多くて。砂漠感が満載ですね」

妹沢「(笑)この作品は、ファンタジックというか、魔術的で煙に巻く言葉を、とても意識的に使っている印象があります」

いしわたり「ああ、確かに」

妹沢「それと同時に、"クライング・ライトニング"は彼女が呼んでた遊びの名前をそのままフレーズにしている、という体裁の歌詞で」



いしわたり「『あのくだらない遊びが俺は苦手だった』って。ご存じクライング・ライトニング、って感じですがこっちはわかんないですよね。これ、何なんでしょう」

妹沢「そう、そこです。そういう、自分たちの内輪でしかわからない言葉やフレーズを持ってくるのは、アレックス・ターナーのよくやる手法なんですよ。たとえば1stの"マーディー・バム"というのも、当時、彼らの仲間内で使っていた言葉らしいんです」

いしわたり「へええ」

妹沢「そこで『クライング・ライトニング』も、意味はわからないけどそういう言葉があるんだな、という関心で私たちを物語の世界に惹きつける手法なんですよね」

いしわたり「なるほどね。"ファイアー・アンド・ザ・サッド"が一番良かったかな。これ、ちゃんとしたラヴ・ソングで。『君が僕のハートを盗み出したその次の日に、何に触れたって君とこれを分け合えたらいいのにという思いが浮かんだ』。ここまでストレートに歌ったことは、これまで一度もなかったんですね」

妹沢「ほんとだ。このアルバムの歌詞は、どう考えればいいんだろう。バランスの問題なんですかね。つまり、1stアルバムでまず音楽シーンに登場し、2ndではそこから後の世界を、ダークで、さらに物語的な感じで妄想を絡めて描く。3rdでそれを、秘密の共通用語を使うことでみんなをファンタジーに巻き込むと同時に、すごく具体的な側面も出てくる……ってことなのかなあ」

いしわたり「ふむ。3rdでは、すごく音楽性が変わるじゃないですか。ここまで音楽性が変わると、『前のほうがよかった』と言う人が山ほど出てくることは、本人もよくわかってると思うんですよ。でも、若者が好むようなやんちゃな曲を無理して作ることもできない。そのタイミングが、この3rdだったと思うんです」

妹沢「確かに」

いしわたり「そうなった時に、あまりにわかりやすく『自分ガンバレ』みたいな曲を歌ったりしたら、それは負けだと思うんです。天下のアークティック・モンキーズですからね。だから、キミたちにはわかんないかもしれないけど、今、この音楽はカッコいいんだよというポーズもあるとは思うんですね」

妹沢「なーるーほーどー。確かに、無理にわかってもらおうとしてませんもんね」

いしわたり「そう、してないんですよね。むしろ不思議な存在になってしまったほうが、この音楽性に移る理由というか、土台ができるんですよ。それぐらいの歌詞の複雑さだな、と思います」



妹沢「それって意識的にアーティストはするものなんですか?」

いしわたり「うん、すると思います」

妹沢「その飛躍の際に、歌詞の仕掛けも使ったと。彼らの場合、ここで今までの自分たちとは違う面を出そうとしたのか、ようやく素を出してもいいと思ったのか、どちらなんでしょうね」

いしわたり「多分、周りからの見え方の年齢を上げたかったと思うんですよ。これまではキッズにとって一番エッジの立ったバンド、というイメージだったじゃないですか。全てのキッズがリスペクトするような、カッコいいバンド。でも3rdの段階で、キッズに騒がれるよりも、クールになりたかった、大人になりたかったんじゃないでしょうか。つまり、身の丈に合ったものをやりたくなった。そうなったときに、『クラブに行って84年のロボットダンスをしてるよ(注:1st"アイ・ベット・ユー・ルック・グッド・オン・ザ・ダンスフロア"のワン・フレーズ)』みたいなのは、もう、できれば言いたくない」

妹沢「うんうん」

いしわたり「もっとファンタジックというか、魅惑的な世界を、ちゃんと色っぽく歌いたかったんだと思うんですよね」

妹沢「3rdに関して取材をしたときに、私は最後の"ザ・ジュエラーズ・ハンズ"の音や歌詞のサイケデリックな終わり方がとても好きなんだけれど、このアルバムがこういう終わらせ方を必要としたのは理由があったのという聞き方をしたんですね。するとアレックスは、ここでカーニバルが終わる瞬間のえもいわれぬ空気感を描きたかったんだと。確かにそう考えながらこの曲を聴くと、華やかなようでどこか物悲しい」

いしわたり「なるほど」